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はじめに・・・
生命体には、美しいかたち、綿密な構造、順応性、思いもよらない生命力などたくさんの要素が備わっています。
ふっと自然に目を向けると、そこにはさまざまな営みがあります。たとえば植物が種より芽を出し、葉を増やしてゆき、光と水を吸収し、風雨に耐えれるようたくましく自立して行く。成熟した植物はやがて実を結び、再びたくさんの種をつくりだしてゆく。
このプロセスは私たち人間にもまったくあてはまる事です。こういう営みは、かたちこそ違え地球が誕生して以来、延々と続いてきたものでしょう。
しかし今日に至り、だんだんとそういう当たり前の自然のサイクルが崩れてきつつあります。
今ここで、こういう何でもないあたりまえの事を、自然と向き合いながらもう一度考え直し、かたちにして行くことがわたしにとって大切な問題です。
出会った時は無表情に見え、とっつきにくく感じた金属も少し手を加えることによって、いろんな表情を見せてくれることに気づき20年が過ぎました。
金属といっても多種多様ですがほとんどの金属は、熱を加える、叩く、削る、熔かす、溶接することでかたちを変えてくれます。
熱を加え叩くと金属はどんどん伸びて行き薄っぺらくなっていきます。逆に分厚くすることも可能です。そして溶接することでどんどん大きくなっていきます。熔かして型に流し込むとまったく違うかたちに変化を遂げます。
表面も研摩することでその金属特有の光を放ち、化学変化によって思いもよらぬ色がだせます。
私の作品は主に鉄・銅・真鍮・ブロンズを用いて制作しています。
ここ数年前より、あらためて鋳造技法にとりつかれ、ブロンズの鋳造作品が多くなってきました。
鋳造とは金属が熱を加えると熔けだす性質を利用した造形技法です。かたまりであったブロンズを一度熔かして、砂でつくった型の中へ流し込みかたちをつくります。
坩堝(るつぼ)の中で熔けたブロンズは何度見ても吸い込まれそうな魅力を持っています。あの冷たく硬質な物体が熔けているという不思議さと、神秘的でピンとはりつめた美しさは何度みても飽きさせません。また坩堝の中は非日常的な世界です。1000℃以上の高温は言うまでもなく、普段わたしたちが重いと感じている石ですら比重の高いブロンズの中ではプカプカと浮かび上がってくるのです。
しかし常に危険と隣り合わせということを忘れてはなりません。こういうプロセスを経て作品が姿をあらわします。
もう少し詳しい鋳造工程の流れをまたこれから紹介していきたいと思っています。
野外での発表の機会が増えるにつれ、以前よりも「場」という事について強く考えるようになってきました。
その場所にわたしの作品があることによってその場所がどう変化して見えてくるのでしょうか。その場でわたしの作品を目にして人はどんな気持ちを抱くのでしょうか。
「わたしは作品に非現実性を求めています。」
「この世のものであってこの世のものではないもの。」
少しわかりにくい言い方になりましたが、現実的な世の中から少しでも離れた気持ちになれた時、人のこころも、考え方も、自由になれることができるのではないでしょうか。
わたしは、作品が人や場に対していつもやさしくあり、刺激的でありたいと願っています。
2001年 12月 9日 長谷川政弘
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